糖尿病専門医に聞いた!知っておきたい体と食事のこと

長野県は長寿No.1!その秘訣とは?

身体のこれから

全国的に長寿県として知られている長野県では、健康で長生きするためにさまざまな取り組みが行われています。生活習慣、社会とのつながり、周産期医療の充実など、個人の努力だけではなく、社会とのつながりや多くの人の支えが重要です。

【監修】鈴木吉彦医学博士

年齢を重ね、だんだん気になってくるのが、「いつまで健康でいられるのか」ということではないでしょうか。まわりでも病気にかかる人が増えてきて、自分も注意しなくてはと気を引き締めている方も多いのではないかと思います。

全国的に長寿県として知られている長野県では、健康で長生きするためにさまざまな取り組みが行われているようです。そこで今回は、糖尿病専門医であるHDCアトラスクリニック院長の鈴木吉彦先生に、長野県が長寿県となっている理由について伺いました。

長野県民が長寿である理由

長野県民が長寿であることは、全国的に知られています。平成27年時点の長野県民の平均寿命は、男性で2位、女性で1位という結果が出ています。

長野県の平均寿命が長くなったのは、最近の話ではありません。戦前から高い順位を維持しており、今も県をあげて長寿に向けての取り組みを続けています。なぜこんなに長寿を維持できるのか、長野県健康長寿プロジェクト・研究事業において調査が行われました。それによると、大きく3つのポイントがあるようです。

健康的な生活習慣

長野県民は、全国と比べて野菜の摂取量が多いこと、メタボリックシンドロームに該当する人や、その予備軍が少ないことがわかりました。体に良い食習慣が定着しており、その結果、肥満になる人が少ないことが推測できます。

また、喫煙率も全国と比べて低いことがわかりました。タバコによる肺への影響は大きく、がんの発生や脳卒中、心筋梗塞とも関連があると言われています。喫煙率が低いということは、これらの病気で亡くなる方も少ないのかもしれません。

社会とのつながり

調査からは、長野県民全体の就業率、そして65歳以上の高齢者の就業率も高いことがわかりました。仕事以外にも、社会活動やボランティアへの参加率も高く、多くの人がシニアになっても何らかの形で社会とつながっているようです。

仕事や社会活動などへの参加は、生きがいややりがいにつながります。ボランティア活動をしている方が、自立度も高いということを示すデータもあります。生きる上での楽しみを持っているからこそ、体だけでなく気持ちの上でも健康的でいられると言えそうです。

公衆衛生水準の高さと充実した周産期医療

長野県内で働く保健師の数は全国2位でした。保健師は、地域に住む人たちの健康管理や保健指導などを行う職種です。生まれたばかりの赤ちゃんから高齢者まで、すべての住民を対象に働いています。

この保健師の数が多いということは、よりきめ細かな対応ができていると考えられます。長野県民の平均寿命の長さは、保健師の働きが支えていると言っても良いでしょう。

また、周産期死亡率(出産前から出産後までの一定の期間の死亡率)も、全国と比べて低くなっています。平均寿命を大きく下げる要因のひとつが、この周産期死亡です。周産期死亡率が低いということは、必要な医療が整備されていて、多くの命が救われているということだと言えるでしょう。

長寿を支える栄養士と薬剤師の活躍

長野県民の長寿は多くの人たちによって支えられていますが、中でも注目されているのが、栄養士と薬剤師の活躍です。それぞれの職種がどのような取り組みをしているのが、ご紹介しましょう。

栄養士の取り組み

長寿を支えるためには、健康的な食事の意識を根付かせることが大切です。長野県では、栄養士などの専門職を中心とした行政チームと、地域で活動するボランティアが協力して健康づくり活動を行われてきました。栄養講座を開催したり、県民健康栄養調査で得られたデータをもとに具体的な施策を検討したりと、これまでさまざまな取り組みが行われてきています。

その中でも、長野県栄養士会を中心に行われているのが、減塩に関する取り組みです。長年、長寿県として知られてきた長野県ですが、脳血管疾患による死亡の多さが課題とされていました。脳血管疾患は要介護状態になる原因でもあるので、健康に長生きするためには、この数字の改善が必要だったのです。

県民の栄養に関するデータを見ると、全国に比べて食塩の摂取量が高いこともわかりました。さらに地域別の特性や食事内容の傾向も把握し、食生活の改善に向けた取り組みを始めました。これは、県民一体となって健康づくりを行う「信州ACEプロジェクト」のひとつとして、今も継続されています。

県内では、事業者と連携して塩分控えめの弁当を販売したり、各自治体などで栄養士による教育活動や食に関する調査が行われたりしています。県と栄養士会によるチームは、10年後の脳血管疾患を減らすことを目標としており、今後の活動や成果についても気になるところです。

薬剤師の取り組み

長野県の薬剤師会も全国的に注目されていて、特に上田市を中心とした上田地域での取り組みが評価されています。

上田地域の薬剤師会は、医師会と連携して、「かかりつけ薬局」の普及に早くから取り組んできました。かかりつけ薬局とは、普段からお世話になっている薬局のことです。病院ごとにバラバラの薬局に行くのではなく、処方箋をもらったら必ずかかりつけ薬局へ行き、薬の内容や体調などを把握してもらった上で処方を受けるというシステムです。

このかかりつけ薬局は、全国的に広めようという流れになっていますが、まだまだ普及には至っていません。全国で唯一、かかりつけ薬局がきちんと役割を果たしていると言われているのが、上田地域なのです。

一人の薬剤師がすべてを把握していれば、どんな薬を飲んでいるか、効果は出ているのかなどがよくわかります。医師も状況を詳しく把握できますし、複数の病院で同じような薬をいくつも処方されてしまった、などということも防げます。

薬局では市販薬や介護用品なども取り扱っていますので、何かあるとかかりつけ薬局を頼る、という習慣が住民には根付いているようです。早めに相談できる相手がいること、体調を把握してくれる人がいることが、健康管理を支えていると言えるでしょう。

長野県の門前薬局は儲からない!?

薬局といえば、受診した病院の近くの薬局で薬をもらう、ということが当たり前になっている人も多いのではないでしょうか。

病院のすぐ近くには薬局も立地しており、この薬局を「門前薬局(病院の門の前にある薬局という意味)」と言ったりもします。全国的にみれば当たり前のこの状況ですが、長野県では成り立ちません。

それは、先ほどお話ししたように、かかりつけ薬局が普及しているから。住民はどこの病院に行っても薬局は決まった場所しか行かないので、門前薬局には立ち寄らないのです。

門前薬局の存在しか知らないと、「薬剤師の仕事なんて薬を処方箋どおりにとってくるだけでしょ」「薬剤師に体調のこと話しても意味ないよね」なんて思われがちです。かかりつけ薬局がもっと普及すれば、薬剤師の役割も理解いただけるようになるのではないでしょうか。

長野県から学ぶ、長寿に必要なこと

長野県がなぜ長寿なのかという理由についてお話ししてきましたが、健康でいるためには、個人の努力だけではなく、社会とのつながりや多くの人の支えが重要であることがわかるのではないかと思います。

長く健康でいるためにも、食事などの生活習慣に気をつけつつ、ご自身の健康について頼れる相手を持っておくことが大切であるといえます。

監修

鈴木吉彦医学博士

慶応大学医学部卒。元、日本医科大学客員教授。現、HDCアトラスクリニック院長。

糖尿病外来と併行し、自由診療としての肥満治療外来を立ち上げる。