今回は、大動脈解離の病態や原因、その症状や治療方法をはじめ、実際にあった大動脈解離の事例と予防法についてまとめました。
大動脈解離は、循環器の病気のなかでも死に至る可能性が高い病気のひとつです。それまで何も症状がなかったのに突然発症するので、油断はできません。大動脈解離は予防が大切ですが、具体的にはどのような点に気をつけたらいいのでしょうか?
そこで今回は、大動脈解離の病態や原因、その症状や治療方法をはじめ、実際にあった大動脈解離の事例と予防法についてまとめました。動脈硬化や高血圧が気になる人、今のうちから病気を予防したい人の参考になれば幸いです。
目次
大動脈解離とは? 原因の多くは動脈硬化
大動脈解離とは、大動脈の血管の壁が何らかの原因で裂けて本来の血流とは別の血流ができる病気です。大動脈は、内膜、中膜、外膜の3層構造で、心臓から血液をからだ中に送る大事な役割があります。
大動脈解離になると、内膜が破れて中膜に血流が入り込みます。そうなると、血管の壁は外膜だけになるので、破れやすくなり危険です。大動脈はからだの中で一番太い動脈で、流れている血液の量も多いため、命に関わります。
大動脈解離の原因は動脈硬化が多く、それを引き起こす高血圧、喫煙、ストレス、高脂血症、糖尿病などもリスクになります。動脈硬化とは、文字通り動脈が硬くなり弾力性がなくなった状態です。血液の流れに耐えきれなくなり、血管が破れることで大動脈解離が起こります。
国立循環器病研究センター(※1)によると、発症年齢は70代が多いとのことですが、40~50代で発症することもあるようです。また、冬に発症しやすく夏に少ないと言われており、急激な温度変化も大動脈解離を引き起こす要因となります。発症しやすい時間帯は、日中のなかでも6時~12時が多く、深夜から朝方にかけては少ない傾向にあるそうです。 なお、日本循環器学会が発表するガイドライン(※2)によると、年間発症頻度は10万人あたり3人前後で、手術件数は増加しているとのことです。
大動脈解離の症状とは? 突然起こる痛みがほとんど
大動脈解離の症状は、突然起こる胸や背中の激痛がほとんどです。一方で、痛みがなく、意識障害や麻痺などが起こることもあります。大動脈は全身に血液を送っているので、どこに障害が起きたかによって症状が異なります。
たとえば、脳とつながっている部分に障害があれば意識障害が、足とつながっている部分であらばマヒ症状が起こりやすくなります。
大動脈解離の検査、治療、予後。助かる確率はどのくらい?
ここでは、大動脈解離の検査法と治療、そして予後についてみてみましょう。
検査
- 超音波検査(心エコー)
解離の状態や、合併症である心タンポナーデ(心臓と心臓を覆う心膜の間に血液がたまり、心臓が正常に動かなくなる状態)の有無などが分かります。 - 造影CT検査
確定診断するために重要な検査です。治療方針を決めるために必要な情報が得られます。 - 心電図
- 胸部X線(レントゲン)
- 血圧
全ての人に当てはまるわけではありませんが、血圧の左右差も特徴のひとつです。
治療
解離が起きた場所によってスタンフォード分類A型とスタンフォード分類B型に分類されます。
スタンフォード分類A型は、心臓のすぐ上にある上行大動脈に解離があるもの、スタンフォード分類B型は上行大動脈に解離がないものを指します。
治療法も異なり、スタンフォード分類A型では緊急手術で人工血管置換術を行いますが、スタンフォード分類B型では薬による内科治療が一般的です。ただし、合併症や持続する痛みがある場合は手術を行います。
予後
大動脈解離が起きると、病院に到着する前に亡くなることも少なくありません。発症から時間が経つごとに致死率が上がるとされており、特に48時間以内の死亡率が高いといわれています。
手術の治療成績は向上していますが、大動脈解離が死に直結する病気であることは変わりません。スタンフォード分類A型は全国平均の死亡率が14.5%で、危険度の高い手術であることが分かります。また、スタンフォード分類B型は、薬を中心とした内科治療の30日間の死亡率が10%というデータが出ています。(※3)
一番多い合併症は、心タンポナーデです。先述のとおり、心臓と心臓を覆う心膜のあいだに血液がたまり、心臓が正常に動かなくなる状態をいいます。大動脈解離により血液が漏れることで、心タンポナーデを引き起こします。
実際にあった大動脈解離の事例
ここでは筆者が看護師をしていた当時、遭遇した大動脈解離の患者さんの事例を紹介します。どのような生活習慣から発症したのか、イメージしながら読んでみてください。
Bさん:50代後半の男性。家族構成:妻、子ども
好きなものを好きなだけ食べ、自由気ままな生活をしていました。お酒が好きで、喫煙歴もあります。以前より血圧が高く、上の血圧は170~180mmHgでした。職場の健康診断でも血圧の高さを指摘されていましたが、特に症状がなかったため、病院で詳しい検査を受けずにいました。そのまま放置していたところ、春先に突然激しい胸の痛みを感じました。
妻が救急車を呼び、病院に運ばれて検査を受けたところ、大動脈解離と診断され緊急手術を受けることになります。検査の結果、スタンフォード分類A型と分かり、人工血管置換術を受けました。かなり大がかりな手術になったものの、命をとりとめ、後遺症もありませんでした。
これまでの生活習慣を見直すため、退院前には禁煙と飲酒制限、塩分制限が指導されました。食事に関しては妻も一緒に指導を受け、塩分を制限した食事作りをすることになりました。Bさんは今回の件で命の危険を感じ、「今まで好き放題やってきたからなあ」と、後悔している様子でした。
この事例では、健康診断で高血圧が指摘されていたにも関わらず放置していたことが問題になりました。病院で詳しい検査をし、薬で血圧をコントロールできていたら、大動脈解離は起きなかったかもしれません。それまで全く症状がなくても急に発症し、命に関わる事態となったことに恐怖を感じた人もいるのではないでしょうか。
手術後、禁煙や飲酒制限などさまざまな制限が出されましたが、負担は患者さん本人だけでなく妻にもかかってきます。食事作りを妻が担当している場合、塩分を多く含む食材が使えなかったり、調味料の量を毎回量ったりと手間が増えてしまいました。家族の心配ごとや負担を増やさないためにも健康維持に心がけたいものです。
大動脈解離を防ぎ、元気で過ごすために気をつけたいこと
今回の事例をふまえて、大動脈解離を予防するために注意したいことをまとめました。
動脈硬化を予防する
Bさんは高血圧で喫煙歴があったことから、大動脈解離の原因である動脈硬化が起きていた可能性があります。「好きなものを好きなだけ食べていた」と話しており、食生活を改善することで動脈硬化が予防できたかもしれません。具体的には、腹8分目を心がけることや、食事のバランスに気をつけてコレステロールが高くならないようにすることが大切です。
また、国立がん研究センターと筑波大学の発表(※4)によると、魚をほとんど食べない人は大動脈疾患のリスクが約2倍あることが分かっています。魚を月1~2回食べることで大動脈疾患のリスクを軽減できるので、日常的に取り入れましょう。
急激な温度変化を避ける
Bさんが大動脈解離を発症したのは春先で、まだ寒い時期でした。冒頭で取り上げたように、大動脈解離は冬に発症しやすいという特徴があります。これは、温度差によって血圧が変動し、血管に負担がかかりやすくなるためです。
日常生活で温度差を感じやすい場面は入浴です。寒い脱衣所で服を脱いだり、湯船に浸かったりと温度が急激に変化します。予防のため、脱衣所や浴室をあらかじめ温めておきましょう。浴室の暖房機能を活用する、湯船にお湯を張ったあとはフタを外し蒸気で温めるという方法があります。また、最初から熱すぎる湯船に入らず、ぬるめのお湯から徐々にからだを慣らすことも大切です。
禁煙、適度な飲酒
Bさんはお酒が好きで喫煙歴がありますが、タバコと多量の飲酒は動脈硬化を引き起こします。予防するためには、禁煙と適度な飲酒を心がけることが必要です。 厚生労働省によると、「適度な飲酒量」とは、1日に日本酒なら1合(180㏄)、ウイスキー水割りならシングル1杯程度が目安とされています。(※5)
異常があったら早めに病院を受診する
Bさんは、職場の健康診断で高血圧を指摘されていたにも関わらず、放置してしまいました。高血圧になると、すぐには影響がなくても経過とともに病気を発症しやすくなります。健康診断で指摘された人は、忘れずに病院で詳しい検査を受けましょう。血圧が高い人は、自宅で継続して測る習慣をつけると、異常に気づきやすくなります。
まとめ
大動脈解離は、急に発症し死に至る可能性のある病気です。そのため、生活習慣を整えていかに予防できるかがポイントとなります。
今は症状がなくても、年齢とともに大動脈解離が起きるリスクは高くなります。いつまでも元気で充実した生活を送るために、今のうちから気をつけていきましょう。
【参考資料】
(※1) 国立循環器病センター病院 「大動脈瘤と大動脈解離」
http://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/aortic-aneurysm_dissection.html#sec4
(※2) 日本循環器学会 「大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2011年改定版)」
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_takamoto_d.pdf
(※3) 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス 「[57]大動脈に"こぶ"ができたら」
http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/blood/pamph57.html#anchor-2
(※4) 国立がん研究センター 「魚をほとんど食べない人で大動脈疾患死亡が約2倍に増加」
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2018/1015_02/index.html
(※5) 飲酒のガイドライン | e-ヘルスネット(厚生労働省)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-03-003.html