高齢者が転倒した際に取るべき適切な対応のポイント

身体のこれから

高齢者が転倒した際に注意すべきポイントや、応急処置の方法

【監修】遠藤愛(えんどうあい)

高齢になるとバランス感覚や敏しょう性が低下するため、ふとした拍子にふらつき、転びやすくなります。高齢の親を持つ方は、「いつか転んでケガをするのではないか」「骨折して寝たきりになったら」と気が気ではなく、「万が一転んだときにどう対処すればいいのか?」という不安もあるでしょう。
そこで今回は、高齢者が転倒した際に注意すべきポイントや、応急処置の方法ついてお伝えします。

高齢者の事故 ダントツは「転倒・転落」

高齢化にともない、高齢者の事故・救急搬送件数が増えています。救急搬送の原因を見てみると、「ころぶ」に起因するものが全体の約8割を占めており、いかに高齢者が転倒しやすいかを表しています。

東京都消防庁「救急搬送データ」を基に作図

高齢者の転倒・転落事故は、ときに骨折や頭部打撲による急性硬膜下血腫など重篤な状態を招くことがあります。高齢者の不慮の事故による死因を見ても、「転倒・転落」による死亡者数は「誤嚥等の不慮の窒息」に次いで第2位という結果です。
幸いにして一命を取りとめたとしても、後遺症で寝たきり状態になることも多く、介護が必要となるケースが少なくありません。

厚生労働省「高齢者の事故の状況について平成30年9月12日」図表3高齢者の不慮の事故による死亡者数(年次別・主な死因別・3年ごと)を基に作図

高齢者に転倒事故が多い理由として、大きく次の3つが挙げられます。

1.身体機能の変化

加齢とともに運動機能やバランス力が低下し、わずかな段差でもつまずきやすくなります。また、高齢者に多い白内障、緑内障、加齢黄斑変性といった目の病気も転びやすくなる原因のひとつです。

2.内服薬の影響

高齢者の中には慢性的な病気や不調を抱え、何種類もの薬を服用している方が少なくありません。さらに加齢によって薬を分解・排泄する機能が低下すると、「薬が効きすぎる」「副作用が現れやすい」という問題が生じます。特に多い副作用が「ふらつき・転倒」です。複数の薬を服用することが高齢者の転倒リスクを高めています。

3.認知症

認知症の方は、周囲へ注意を向けたり、危険を回避したりといった行動が難しいうえに、薬の副作用によってふらつきやすい傾向にあります。認知症のない方と比べて転倒リスクが高く、常時見守りが必要となることもあります。

さらに高齢者の転倒事故は、過半数が自宅などの室内で発生しているのが特徴です。もっとも多いのが「居室」、次いで「階段」「廊下」「玄関」となっています。(※1)
このように、高齢者の転倒事故は普段の生活の中で「いつでも起こりうる事故」として認識し、予防はもちろん、いざというときの対処について確認しておくことが大切です。

親が転倒した! どう対処する?

高齢者の転倒事故の多くは室内で起きています。「危ない!」と思ったときには転んでいた、実家を訪問したら廊下にうずくまっていたというのはありえない話ではありません。そんなとき、どのように対処したらいいのでしょうか? ここからは、自宅で転倒事故が発生した場合を想定して、発見から病院受診までの対処法について解説します。

1.状況を確認する

転倒時の状況(どこで、どのように倒れたか)と意識はあるかどうかを確認します。意識があれば、「痛い」「苦しい」など訴えている症状を確認しましょう。

2.受傷者の状態に応じて対処する

・痛みを訴えている

転倒後、特定の部位を激しく痛がる場合は骨折を疑います。
痛がっている部位に腫れや変形がないか、動かすことができるのかを確認しましょう。
腫れている場合は患部を冷やし、無理に動かさないようにします。変形している場合も、元に戻そうとすると骨折した部分の神経や血管を傷つける恐れがあるため動かしてはいけません。新聞紙やダンボールなどを副木にして、骨折を疑う部位を含めた上下の関節を包帯や三角巾、なければ幅広の紐やネクタイなどでしっかり固定します。

・出血している

傷口を清潔なガーゼやハンカチで直接圧迫します。しっかりと圧迫すれば、ほとんどの場合はこの方法で止血できます。
感染予防のため、可能であれば救助者はビニール手袋を着用するか、なければビニール袋で代用しましょう。

どうしても止血できない場合、ベルトやネクタイを使用して止血する方法もありますが、神経や血管を傷つける恐れがあるため、訓練を受けていない人が容易に行うことは推奨できません。

・動けない

受傷者を安全な場所に移動させたいけれども自力で動けない場合、次のような方法があります。

受傷者の背後に回り、両わきの下から手を入れてからだの一部(痛みのない部位、折れていないほうの腕など)をつかみ、後方に引きずるようにして移動させます。

受傷者のからだを毛布やシーツなどでくるみ、引きずるようにして移動させます。

ただ、いずれの方法も力が必要です。力のある方や救助者が2人以上いる場合はこの方法も可能ですが、難しい場合は無理に動かさず、救急隊員の到着を待ちましょう。

・意識がない、呼吸をしていない

発見時に意識や呼吸がなければ、迷わず119番通報をしましょう。救助者が2人いる場合は、ひとりが119番通報、もうひとりが蘇生処置と手分けして行います。
肩をたたきながら大声で呼びかけても反応がない場合は「意識なし」、胸とお腹を観察して動いていなければ「呼吸なし」と判断します。呼吸があるものの途切れ途切れ、しゃくりをあげるような呼吸をしている場合は「異常」と判断できます。このような場合は、すぐに心臓マッサージ(胸骨圧迫)と人工呼吸を開始します。

心臓マッサージ(胸骨圧迫)
胸の中央に手を当て、その上にもう片方の手を重ねて「強く・速く・絶え間なく」圧迫します。十分に圧迫しなければ効果がないため、受傷者の胸が5cm沈むくらいの強さでしっかりと圧迫しましょう。1分間に100〜120回くらいの速さでテンポよく、絶え間なく圧迫し続けます。

<心臓マッサージの部位>


<心臓マッサージの方法>


<心臓マッサージの深さ>

※イラスト:厚生労働省「救急蘇生法の指針 市民用 2015」より引用

人工呼吸
片手で受傷者の額を押さえ、もう片方の手で受傷者のあご先を持ち上げて気道確保します。
受傷者の胸の動きを確認しながら、1回につき1秒かけて息を吹き込みます。このとき、吹き込んだ息が漏れないように、額を押さえているほうの指で受傷者の鼻をつまみます。これを2回行います。
心臓マッサージと人工呼吸の両方を行う場合、「心臓マッサージ30回」につき「人工呼吸2回」を交互に繰り返します。救助者がひとりで余裕がない場合は、人工呼吸を省略して心臓マッサージに専念してください。

<気道確保の方法>


<人工呼吸の方法>

※イラスト:厚生労働省「救急蘇生法の指針 市民用 2015」より引用

3.救急車を呼ぶ

意識がない、呼吸をしていない、普段と違う呼吸をしている場合は、すぐに119番通報で救急要請をします。その際に気をつけることは、慌てず状況を正確に伝えることです。

・救急車が到着するまでに準備するもの

蘇生処置を行う必要がなく、受傷者の状態が安定している場合は、救急車を待つ間に病院へ行く準備をしておくと安心です。主に以下のようなものが準備物として挙げられます。

  • 健康保険証・診察券
  • 普段飲んでいるお薬とお薬手帳
  • 現金
  • 事故発生時もしくは発見時の状況や、救急車の到着までに行ったこと、これまでの病歴などを簡単にメモしておく

転倒しても「慌てない」「無理に動かさない」

自分の親が転倒したら......。多くの方は、冷静に対処できないのではと不安を感じることでしょう。日頃から転倒事故を起こさない工夫(健康の維持、内服薬の見直し、住環境の見直しなど)を行うのはもちろんですが、いざというときのための応急処置や居住地域の救急相談窓口や救急病院を確認しておくことが大切です。
一番のポイントは、「慌てない」「無理に動かさない」ことです。
ご自身の体調や体力の範囲を超えた救助活動は、ともすれば二次的な事故を起こすリスクがあります。「様子がいつもと違う」「とても痛がっている」「動かせない」と判断したら、ためらわず救急車を要請し、すみやかに病院を受診しましょう。

※1 消費者庁 高齢者の事故の状況について -「人口動態調査」調査票情報及び「救急搬送データ」分析-
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_009/pdf/caution_009_180912_0002.pdf

監修

遠藤愛(えんどうあい)

看護師として約13年間病院勤務。病院時代、高齢患者と家族の介護問題に直面したことをきっかけに、介護老人保健施設・訪問看護に従事、高齢者看護を学ぶ。現在は看護師の知識と経験を活かし、ライターとして活動中。