高齢者の転倒・場所

身体のこれから

転倒しやすい場所「環境要因」に焦点を当てて解説します。

【筆者】土居 真太郎

敬老の日である9月15日、総務省は、国内高齢者は過去最多の3588万人、人口に占める割合は28.4%になったと発表しました(※1)。高齢者の就業者数は866万人と15年連続で増加しています。今後、60代はまだまだ現役世代と見なされる時代になりそうです。
一方で、高齢者の健康障害は転倒をきっかけとして起きることが多く、60代以降の人生を活動的に送るためにも転倒予防に注意を払いたいところです。
ところで、転倒は加齢によるものなのでしょうか。

転倒は、以下のようないくつかの原因が重なって起こります。

  1. 身体的な条件
  2. 危険を惹起(しゃっき)する状況
  3. 障害物のような環境要因

若い方でも、歩きスマホやイヤホンをしたままの歩行は、「②危険を惹起する状況」にあたり、簡単にバランスを崩して転倒や衝突事故を起こしてしまうのです。
高齢者では、下肢の筋力の低下(①身体的な条件)、危険を察知しにくい、2つの動作を同時に行いにくくなる(②危険を惹起する状況)、ちょっとした段差でつまずく(③環境要因)など、転倒を起こす原因が重なりやすくなっています。そのため、年齢を重ねてもこうした原因をひとつひとつ取り除いていくことで、転倒は防止できると言えます。

そこで今回は、高齢者に増加する転倒のリスクの中でも特に、転倒しやすい場所「環境要因」に焦点を当てて解説します。

転倒は50代から始まる

働くシニアのなかには、製造業や建設業、サービス業に従事する方も多いでしょう。仕事中の事故のうち、「転倒」は業種問わず多く発生しており、年々増加傾向にあると言われています(※2,3)。
また年齢が上がるにつれ転倒件数が増えることに男女変わりはありませんが、女性の場合は50代から急激に転倒件数が増えていることがわかります。

厚生労働省「平成30年労働災害発生状況の分析等」図1 転倒被災者の性別・年齢別比較を基に作図

女性が50代以降、転倒しやすくなるのは下半身の筋力の低下によるものと推測されます。そして、転倒が原因になって骨折する割合は、性別に関係なく年齢とともに上昇しています。男女とも40代で半数を超えており、50代以上の女性では7割超にものぼります。高齢での骨折は介護が必要な状態につながりかねません。(※4)

骨折箇所として最も頻度が高いのは手首の24%、次いで膝の11%となっています。(※4)一般的な高齢者が後ろ向きに倒れやすくなるのに対し、アクティブな層では前方に転倒しており、転倒の際に手が出たり膝をついたりしていることが推測できます。
男性の場合、年齢が高くなっても筋力の低下は女性に比べ緩やかであることが多いので、女性ほど急激に転倒しやすくならないと言えます。しかし50代からは、男女を問わず下半身の筋力を保ち、転倒予防を心がけたいものです。

転倒は冬季に増加する

次に労災の発生時期に着目すると、転倒事故は積雪量と強い相関関係にありました。厚生労働省資料「平成30年労働災害発生状況の分析等」によると、積雪量が多いほど転倒による死傷者数が増えています。

転倒災害と降雪量の関係(※5)

 

転倒による死傷者数

13都市の降雪量(*)

平成27年

25,949人

2,047cm

平成28年

27,152人

2,445cm

平成29年

28,310人

2,955cm

平成30年

31,833人

3,562cm

(*)降雪が多い道県の県庁所在地である、札幌市、青森市、盛岡市、秋田市、山形市、福島市、新潟市、富山市、金沢市、福井市、長野市、鳥取市及び松江市におけるそれぞれの年 の1~3月及び 12 月の降雪量を合計したもの。

なお、筆者の産業医経験においても転倒事故は業務中のみならず、通勤中にも発生しており、特に冬季に報告を受けることが多い印象です。中でも大雪の当日よりも数日後に発生し、日陰に残っている残雪や凍結路面で転倒するケースが大半でした。また、冬季以外でも雨天で手がふさがっている場合や、荷物が多い時も転倒事故が多く見られました。

転倒する場所 ほとんどが屋内発生

これまで働くシニアの転倒事故についてお話してきましたが、労働の有無に限らず最も転倒の発生しやすい場所はどこでしょうか。

東京消防庁によると、高齢者の転倒の5割以上が自宅内で発生しています(※6)。さらには、自宅を「室内」と、軒先や庭などの「屋外」とに分けてみると、自宅の事故のうち、9割以上が「室内」で発生しています。

東京消防庁「救急搬送データからみる高齢者の事故」図2-7:高齢者の「ころぶ」事故の発生場所(平成30年中)を基に作図

では、室内のうち、事故が起きている場所はどこでしょう。圧倒的に多いのが「居室・寝室」です。そのあとを「玄関」「廊下」が続きます。(※6)

住宅等居住場所における高齢者の「ころぶ」事故の発生場所上位5位(平成29年中)

 

事故発生場所

救急搬送人員

1位

居室・寝室

22,282人

2位

玄関・勝手口

3,212人

3位

廊下・縁側

2,252人

4位

トイレ・洗面所

1,029人

5位

台所・調理場・ダイニング

834人

東京消防庁「救急搬送データからみる高齢者の事故表」2-1:住宅等居住場所における高齢者の「ころぶ」事故の発生場所上位5つ(平成30年中)を基に作図

なお、東京都消防庁のデータでは、階段で転倒した場合は「転落」に数えられ、割合としては転倒に次ぐ大きさを占めました。転落の発生場所も「住宅等居住場所」が最も多く全体の71%を占めています。(※6)
このことからも高齢者の転倒事故はほとんどが自宅で起こっていると言えるでしょう。

実際の事例としては段差につまずく、浴室で滑る、階段を踏み外す、手すりをつかまり忘れるなどが挙げられます。外出時は転倒しないように注意していても、自宅内では住み慣れていることもあって油断していることや、自宅内には障害物がたくさんあることが転倒の原因と言えそうです。

将来を見据えたリフォームを

最後に環境面から、転倒防止策を考えてみましょう。
現役の頃と同じようなライフスタイルを送る場合、転倒予防は自宅だけでなく屋外でも注意が必要です。冬季は特に転倒を起こしやすいことを意識してください。
また転倒のほとんどが自宅で起こることを考えると、自宅をリフォームする際には転倒予防の視点も取り入れていただきたいところです。
子育てが一段落したご家庭ではリフォームを検討するかもしれません。間取りを変更したり、趣味の部屋を作ったり、リビングやキッチンを広くとってみたり。家の中だけでなく庭で新しいことを始めたくなるかもしれません。暮らし方の変化にともない自宅をアレンジしたくなると思います。
しかし、まだまだ元気な時から高齢になった時の自分の姿を想像することは難しいものです。東京消防庁の調査でも、転倒事故は75歳から増加傾向となり80歳から急激に増えていきます。

東京消防庁「救急搬送データから見る高齢者の事故」図2-5:「ころぶ」事故による高齢者の年齢別救急搬送人員と人口に占める救急搬送人員の割合(平成30年中)を基に作図

ご自宅をすり足で歩いてみて段差を感じられれば、そこは将来の転倒リスクになります。床上に電源コードやカーペットなど引っかかりそうなものは見当たらないでしょうか。階段だけでなく玄関にも手すりや段差を軽減する転倒予防が必要です。
一般的に高齢になればなるほど後方へ転倒しやすくなり、段差の大きい場所では転落につながります。例えば玄関で、靴を履く際に前のめりに転落する可能性があることなどは若いうちは想像しづらいと思います。転落した場合は転倒に比べて怪我が重症化してしまいます。
また転落は、階段の次にベッドで発生しています。ベッドに設置してある転落防止柵に引っかかって転落することもよくあるケースです。高齢にともない暗い場所での視力が低下してくることも見逃しがちなポイントです。
白内障や網膜色素変性症のような眼の病気を患っている場合は、特に暗いところでの視力が低下してしまいます。階段や玄関のように段差が生まれるところや寝室からトイレへの動線を明るく保つこと、寝室では照明のスイッチを枕元に設置する配慮も必要です。

転倒を予防するには足腰の筋力を保つことが肝要ですが、転ばない環境づくりがまさに転ばぬ先の杖となります。思わぬことが転倒の原因となっていることも多いため、転倒予防の環境づくりには専門家の意見をぜひ参考にしてください。

引用文献

※1総務省統計局「統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-」
https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1210.html

※2厚生労働省「平成30年度労働災害発生状況の分析等」別表4
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000555711.pdf

※3厚生労働省「平成30年度労働災害発生状況の分析等」別表2
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000555711.pdf

※4厚生労働省 沖縄労働局「職場での転倒防止策~増える中高年女性の転倒労災~」
https://jsite.mhlw.go.jp/okinawa-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/anzen_eisei/anzenkankei/_120385/_120387/_120279.html

※5厚生労働省「平成30年労働災害発生状況の分析等」 表3 転倒災害と降雪量の関係を基に作図
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000555711.pdf

※6東京消防庁「救急搬送データからみる高齢者の事故」
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/lfe/topics/201509/kkhansoudeta.html

筆者

土居 真太郎

松弘会三愛病院 ペインクリニック科

痛みの治療とともにフレイルやロコモティブシンドロームの予防にも力を入れています。