高齢者の骨折は手術できない?最悪の事態を防ぐためのポイントを紹介

身体のこれから

【特集】50代から考える、怪我のこと

【監修】浅野すずか

高齢者は、身体機能の低下にともない転倒するリスクが高くなります。転倒で一番懸念されるのが骨折です。骨折の治療は一般的に手術が行われますが、高齢者は手術ができないと聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。もし手術ができないとなると、どのように治療したらいいのか、その後の生活はどうなるのか不安になってしまいます。
そこで今回は、高齢者に骨折が多い理由や手術ができるのかどうか、さらに骨折しても自分らしく生活するために気を付けるポイントをまとめました。高齢者に多い骨折について正しい知識を身につけ、もしもの場合に役立てていただければ幸いです。

なぜ高齢者は骨折しやすいのか?

高齢者に多い骨折の種類

高齢者に多い骨折は、大腿骨近位部骨折です。大腿骨とは太ももにある骨のことで、大腿部近位部骨折は太ももの付け根あたりで起こる骨折のことをいいます。
大腿部近位部骨折のなかでも、大腿骨頸部骨折と大腿骨転子部骨折が大半を占めます。年間発生数ですが、公益財団法人日本医療機能評価機構のウェブサイト(※1)には、こうあります。

年間発生数は2007年では約15万例であった。発生率は40歳から年齢とともに増加し、70歳を過ぎると,急激に増加していた。
「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)  第2章 大腿骨頚部/転子部骨折の疫学 ■ Clinical Question 1 わが国における発生数・発生率 解説」より引用

骨折しやすい理由

・転倒しやすい

高齢者は少しの段差でもつまずきやすくなりますが、これにはさまざまな要因がからんでいます。主な要因として、バランス障害、筋力低下、視力障害などが挙げられます

・骨粗鬆症で骨がもろくなる

高齢になると、骨粗鬆症になるリスクが高まります。骨の量は20~30代でピークになり、その後男女ともに年齢を重ねるにつれて減少します。食事バランスの乱れや運動不足も骨粗鬆症の要因のひとつです。
また、骨粗鬆症になるリスクは女性の方が高く、男性の1.7倍に及ぶとも言われています。女性は、50歳前後で閉経を迎えるのにともない女性ホルモンが減少することで、骨の形成と吸収作用が弱くなることが理由と言われています

骨折が日常生活に与える影響とは?

寝たきりになり、健康寿命が短くなる

骨折すると、健康寿命が短くなります。健康寿命とは、一般的な寿命とは意味合いが異なり、日常生活に制限のない期間のことをいいます。つまり、平均寿命と健康寿命の差は、日常生活に制限のある「不健康な期間」です。内閣府の調査によると、平成29年時点の平均寿命と健康寿命の差は、男性で約8.84年、女性で約12.35年。骨折は、この「不健康な期間」を延ばす要因になります。

内閣府「平成30年版高齢社会白書(全体版)」図1-2-2-4を基に作図

特に大腿骨骨折は、肩や手首の骨折と違って歩けなくなるため寝たきりになる可能性が高いといえるでしょう。内閣府の調査によると、要介護の高齢者の介護が必要になった主な原因のうち、「骨折・転倒」は12.5%に及びます。
介護が必要になると、自分で自分のことができないだけでなく、活動範囲が狭まります。
夫婦の楽しみだった外食ができなくなった、趣味の習い事を辞めざるを得なくなったなど、生活の質が低下します。

内閣府 「平成30年版高齢社会白書(全体版) 2 健康・福祉」図1-2-2-9を基に作図

骨折後に亡くなる可能性がある

大腿骨近位部骨折をした高齢者は、1年以内に10%前後の割合で亡くなっているというデータがあります。骨折が直接の死因になることは少ないですが、他の病気を患っていたり、体力が衰えていたりする場合は、骨折にこれらの要因が重なることで新たな問題を引き起こし、死に繋がる可能性があります。

高齢者は骨折しても手術できないのか?

高齢者でも手術可能

骨折の治療方法には、「保存療法」と「手術」があります。保存療法とは、牽引(けんいん)療法によって、骨を直接引っ張ったり、リハビリを行ったりしながら骨癒合(骨が再生されくっつくこと)を待つ方法です。手術では、骨折部や状況に合わせて、骨接合術や人工骨頭置換術を行います。ギブスで固定する方法もありますが、大腿骨近位部骨折では多くの場合、手術が選ばれます。これは、保存療法では骨が元通りにくっつかないリスクをはらんでいることや、手術によりリハビリの開始時期が早まり、早期回復を見込めることが理由として挙げられます。
これは高齢者でも同じで、手術が第一選択になります。高齢者だからといって、手術できないわけではありません。ただし、骨折以外に疾患があり、手術や麻酔が危険と判断される場合は、選択肢が狭まることもあります。手術ができるかどうかは、順調に回復するためのポイントのひとつになります。

手術をしてもリスクがある

高齢者でも手術は可能ですが、手術をすれば安心というわけではありません。手術にもリスクがあります。

・認知機能の低下

認知機能とは、状況を正しく理解し判断する機能です。それまでしっかりしていた方でも、入院をきっかけに認知機能が低下することがあります。これは、高齢者に起こりやすい症例です。高齢者は、急な環境の変化に適応するのが難しく、混乱してしまいます。この状態を「せん妄」といいます。ただし、せん妄は時間が経つにつれて回復します。

また、せん妄に症状が似ている疾患として「認知症」があります。
認知症は、治療によって多少進行を遅らせることができても、完治させることはできません。もともと認知症を患っている場合、入院をきっかけに症状が悪化する可能性があります。

・合併症による悪化と歩行機能の低下

何らかの合併症があると、手術後の歩行機能が悪化します。軽度の心電図異常や呼吸機能の低下など、手術に支障がない程度の合併症でも、手術後に悪化することがあります。これによりリハビリの開始が遅れ、手術後の歩行機能に悪影響をおよぼします。

・最悪の場合、死に至る

手術後に肺炎、腎不全、心不全などの合併症にかかり亡くなるケースがあります。さらに、高齢者が長期間安静にしていると静脈血栓を起こしやすくなります。血栓が肺動脈に飛んで血流を遮断すると、肺塞栓症(エコノミークラス症候群)を引きおこし、死に至ることがあります。

高齢者にとって手術は予後の回復を早める一方、心身へのリスクがあることも覚えておきましょう。

骨折しても再びイキイキと暮らすためのポイント

万が一、骨折しても再び自分らしい生活を送るためのポイントをまとめました。

日頃から健康的な生活を心がけ、病気を予防する

もし骨折しても、健康であれば手術を受けられます。手術による合併症の悪化を心配しなくてもいいため、手術後早期にリハビリをスタートできます。

手術後は早期離床し、リハビリをする

体を動かさないと、筋力はどんどん低下します。手術後は、痛みや動かしづらさからリハビリが億劫になるかもしれません。しかし、骨折前と同じような生活をするためには、リハビリが必要です。早くリハビリを始めるほど歩行機能が回復しやすいので、医師や理学療法士とともに取り組みましょう。

骨を強くする生活習慣を取り入れる

骨は、自己修復能力が高い組織です。しかし、高齢者で特に骨粗鬆症がある場合は、なかなか修復が進まないこともあります。そのため、少しでも骨を強化する生活習慣を取り入れましょう。カルシウムを多く含む牛乳や乳製品、大豆製品、小魚、野菜を毎日豊富に摂取したり、適度な運動をしたりすることが、骨量増加に繋がります。

まとめ

高齢者が骨折しても、手術は可能です。ただし、手術や麻酔に耐えられる体であることが前提です。また、骨折のリスクに負けず少しでも健康寿命を延ばすためには、以下がポイントになります

  • 骨折をしないこと
  • 骨折しても手術が受けられるからだであること
  • 骨折したらできるだけ早めにリハビリを開始すること

これらをクリアするために、生活習慣をこの機会に見直し、少しずつ健康的な生活習慣を取り入れて、楽しく豊かな生活を送りましょう。

※1 Mindsガイドラインライブラリ「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版) 」
https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0016/G0000307/0024より引用

監修

浅野すずか

フリーライター

看護師として病院や介護の現場で勤務後、子育てをきっかけにライターに転身。看護師の経験を活かし、主に医療や介護の分野において根拠に基づいた分かりやすい記事を執筆。